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東京高等裁判所 昭和28年(行ナ)7号 判決 1954年12月23日

原告 株式会社北海道新聞社

被告 公正取引委員会

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

第一原告の請求の趣旨及び原因並びに被告の答弁に対する反論。

原告訴訟代理人は被告が原告に対する公正取引委員会昭和二十六年(判)第九号事件について昭和二十八年五月十八日にした審決を取り消す、訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め、請求の原因及び被告の答弁に対する反論として次のように陳述した。

一、原告は札幌市に本社を置き北海道新聞と題する新聞(以下道新紙という)の発行及び販売事業を営む株式会社である。

二、被告公正取引委員会は昭和二十六年七月十日原告を被審人とし、原告に私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下独占禁止法という)違反の疑いがあるとして審判開始決定を行い、公正取引委員会昭和二十六年(判)第九号事件として審判手続を経た上、昭和二十八年五月十八日別紙審決書写のとおり審決をした。

三、原告はこの審決に不服であつて左の諸点について争うものである。

(一)  審決の基礎となつた事実を立証する実質的な証拠がない。

(1)(イ) 被告が審決において認定した事実のうち審決書の「事実及び証拠」の部一の認定はまちがいない。

(ロ) 同二の認定は大体そのとおりである。ただ原告は北海道内で最高発行部数を有し他紙はほとんど道新紙と併読関係にあるので「当時同市においては夕刊北海タイムス(以下タイムスという)が約三万八千部販売されていた」ことは夕刊拡張計画が予想(朝刊販売数約六万部の六割)に反し、朝刊の四割程度にしか達しなかつた原因ではない。朝夕刊記事の重複がその主因であつた。

(ハ) 同三の認定はそのとおりである。「例年の年末拡張を一箇月繰り上げ」と認定されたとおり、夕刊発行後昭和二十五年九月頃より逐次地方において朝夕刊の編集を綜合編集方針に改め記事の重複をさけることによつて漸次好評を博すにいたつたので、札幌市内版もこれにならいおのずから拡張の気運にあつたから通例の年末拡張を一月くり上げ販売店に苦衷を披瀝し協力を求めただけで、営業活動の常道としてなされたに過ぎず、なんらの特別事情もない。

(ニ) 同四の認定はそのとおりであるが、「……若干の販売店を除きおおむね承諾を得たので」とあるのは、皮相な認定である。タイムス社の申入は原告に対しては横槍的であり、同社の実力からして原告の朝刊紙と同数の朝刊拡張の要求は販売店に対して弾圧的すぎるものである。現に審決認定事実六及び七記載のとおり多数の新聞販売店によつてこのタイムス社の申入は拒絶されている。

(ホ) 同五の認定について。原告においてタイムス社が朝刊見本紙配達の申込をしたのを知つたこと及び原告の販売部員を各販売店に派遣したことは事実である。「これを自社の拡張に対する妨害行為とみなし」とあるが、これは原告のたんなる主観でなく、客観的事実である。翌日すぐさま販売店に対して過重な負担となる申込をすることは悪意の横槍でなくてなんであろうか。

「一部において自社の夕刊見本紙配達の完了するまで北海タイムス社の朝刊見本紙はこれを配達しないように要請した」事実はない。販売部員を派遣したのは自社の見本紙の配布に支障のないように督励するためであつて、タイムス朝刊見本紙の配布を妨害するためではない。いかなる時期の見本紙配布についても慣例的にやつていることがらである。

特派部員中一、二行きすぎの言を吐いた者があつた事実は別に争わないが、これはたまたまタイムス見本紙配布の横槍があつたためと、原告の重大決意の下に企てた見本紙配布という営業活動のためである。この点につき前示のような認定をし、原告の責任とするのは独断にすぎ正当でない。

(ヘ) 同六の認定はおおむねそのとおりである。「(三、五)のごとき北海道新聞社の要求もあり」とあるが、これは前述したとおり決して弾圧的なものではなく、これが販売店の行動を拘束しているのではない。

タイムス社の横槍的要求を販売店が自主的に過重と判断し「北海タイムスの見本紙は北海道新聞の夕刊見本紙拡張期間後行うという意見が強かつたため」自主的にタイムス社と交渉したがタイムス社営業局長伊藤利孝が不当な要求をしたため「会談は物別れとなつた」のである。

このタイムス社と販売店との間のトラブルというよりもタイムス社の販売店に対する強圧的政策が以後の認定の原因となつていることは無視し得ない重大な事実である。審決は故意にこの関連性を省略している。

(ト) 同七の認定について。販売店が原告会社の会議室で協議したこと及びタイムス社の申込を拒絶することを決定し、十四販売店が同見本紙の大半を配達しなかつたことは事実であるが、その余の認定は独断にすぎ正当でない。

原告会社の鶴谷業務局次長、同麻生販売部長が販売店遠谷、後藤らから同年十一月二十四日から二十七日までの販売店の「会議の模様につき会議中随時連絡を受け」た事実はない。情報を聞知したことは争わないが、市内販売店は原告会社販売部に常に出入しているから、雑談的に会合の模様が耳に入るのは当然である。

原告の社屋の販売部の一隅に札幌地方新聞販売同業組合及び新聞販売同業組合北海道連合会の小さい事務室があるが、ここで協議するにはせますぎるので協議場として原告会社の会議室の使用を申込んできたからこれを許したに止まる。室の使用から販売店と原告とを結びつけて考えるのはあまりにも幼稚な推定である。

十一月二十七日の販売店の会合に鶴谷が出席した事実は否認するが、かりに会議室に入つたとしてもすこしも不都合はない。「同一期間における北海タイムス見本紙につき暗に不配を要求した」事実は全然なく、これを基礎づける実質的証拠を欠く。原告は他紙の見本紙の不配を要求しなければならぬほど他紙に脅威を感じていないのみでなく、かようなことによつて業界を混乱させることは実質的にむしろ原告にとつても不利益なこととなるのは明白であるから、これを要求する理由がない。

「多数の新聞販売店は同社の意に迎合し」たとの認定は被告の独断である。このときの協議内容は販売店にとつてその利害上重大な問題であるのみならず、各販売店はなんら原告に迎合する必要はないのであるから、自主的に判断し決定したのである。販売店の意思決定に原告が実質的影響を与えたとの実質的証拠はない。

「十四新聞販売店は朝刊北海タイムス見本紙を放置してほとんどあるいは大半これを配達」しなかつたのは事実であるが、この事実につき原告は直接にも間接にもなんら影響を与えておらず、原告の行動と因果関係を有するものでないことは明白である。

(チ) 同八の認定について。タイムス社が遠谷販売店に対し販売契約解除の通告をしたこと並びに森、畑中、石川及び遠谷を除く販売店が十二月五日付朝刊本紙及び同六日付夕刊本紙を配達しなかつた事実はそのとおりである。これはタイムス社が遠谷を主謀者とみなし、同人に対し解除の通告をすれば、その余の販売店は同社の意のまゝに動くものと誤信してとつた強圧手段である。しかしその結果はかえつて全販売店に対する挑戦となりその反感を買つたに過ぎない。だが、いずれにしてもそれは札幌市内販売店とタイムス社との間の問題で、原告は明示的にも黙示的にもタイムス朝夕刊本紙の不配を強要していない。「右は北海道新聞社が云々……暗黙のうちに北海タイムスの朝夕刊本紙の不配を強要したものと認められる」との推理は独断皮相も甚だしい見解であつて、これを基礎づけるなんらの実質的証拠もない。

(リ) 同九の認定はまちがいない。これにもとづきタイムス社はその不配地域に対して専売店を設置するにいたつた。これはタイムス社の強圧手段のたどりつく結果である。この専売店設置こそ、不利益な専売制を極度に恐怖していた販売店及びタイムス社を除く道内全発行本社の合売制維持に対する独裁的挑戦であり、この挑戦に対する自衛が次の審決認定事実十及び十一の事実となつてくるのである。

(ヌ) 同十及び十一の認定について。原告が昭和二十六年一月二十日石川販売店を、次いで同年二月六日岩内町島倉販売店を改廃(新聞販売契約の一方的解除)したこと、同年二月原告外七社が合売制堅持の方針を声明したいわゆる八社声明を出したことは事実である。

原告が石川販売店に対し同店扱いの東京各紙の販売取扱につき妨害せしめたこと、島倉販売店をして東京各紙をも返上せしめるのやむなきにいたらせたことは否認する。これは当該発行本社のことがらであつて原告の関知しないところである。また原告が久留宮ら販売店に対し「北海タイムスの放棄を強要し、また東京各紙の返還を迫る等圧迫を加えた」という事実はない。

審決認定事実六及び九の項(前記(ヘ)及び(リ))で述べたようなタイムス社の販売店に対する強圧的政策の結果同社が専売店設置の挙に出て新聞販売業界に混乱を惹起したことが石川及び島倉販売店の改廃あるいは八社声明というような原告及びその他の新聞社の自衛行動の原因なのである。

原告及び東京三紙その他の発行本社はすべて合売制護持の立場にあつたが、タイムス社が一般的に従来の販売店をして取扱わせることをやめ、あらたに専売店を設置するのであれば他社には別に異議はなかつた。ただ袂を別つだけのことである。しかしタイムス社が自己に都合のよい販売店だけを選びこれを専売店とすれば、その販売店を共同設備とする他社がこれを放置するわけがない。対等な又は対等以上の新聞社が不利益に甘んずる理由がないから勢い自紙を引上げるので、これは自衛上当然である。

石川販売店はすでにタイムス社専売店へ移行する準備をしており現にそのとおりになつたものであり、島倉販売店も同専売店に移行することを予定し新聞紙の切替工作をしたのであるから、いずれもこれを改廃することは他の事情と相まつて当然のことである。特に石川は原告に対する新聞代金納入成績が市内販売店中最も悪かつたのである。なお原告が右両店に対して解除通告をするにあたつては各新聞発行本社にもその旨を通告をしている。

いわゆる八社声明は前記のような事情により行われたものであるが、その内容はある合売制の販売店が「一社の専売店に走つた場合依然として吾々の新聞を取扱つて行けるとの誤解が更に混乱を深めているとも考えられる」旨を明らかにしたのである。これは販売店がタイムス社の専売店となれば、同社が優位に立つことになつて他社との平等が損われるから、専売店となることを禁止するだけである。しかもこれは専売店に走ることを強制的に禁止しているのではなくて、専売店となる場合自紙を取扱わせなくなることを警告しているにすぎないから、この声明は本来なんら不正のものを含まないのである。

「右ビラの趣旨に従い……北海タイムスの放棄を強要しまた東京各紙の返還を迫る等圧迫を加えたもの」との審決の認定は、ビラすなわち八社声明が前述のとおりなんら圧迫的要素を有していないのであるから、あやまりであり、事実原告はなんらの圧迫もしていない。久留宮販売店らが「擬装専売」であることは証拠上明らかである。

以上原告が否認した事実については被告の事実認定はことごとく実質的証拠を欠くものであり、かえつて原告の主張する事実について実質的証拠が存するのである。この故に審決は当然取り消されるべきものである。

(二)  審決は法の適用を誤つている。

審決はその認定した審決書「事実及び証拠の部」五、七、八、十、十一の一連の行為が独占禁止法第二条第六項第五号に該当するというが、原告のこれらの行為は本来当然に許されるべき行為であつてなんら不正の色彩をもつものではなく、前記法条の要求する不当性を欠くものであることは、前記審決の事実認定に対する攻撃において主張したとおりであり、被告がこの事実をあたかも法定の要件に合致するかのように把握することは不当であり、法の適用を誤つているものといわなければならない。これを分説すれば次のとおりである。

(1) 審決は前記一連の行為は「自己の競争者たる北海タイムス社から見本紙あるいは本紙の供給を受けないことを条件として北海道全域特に札幌市を中心とする地区において各新聞販売店と取引するもの」であるとしているが、原告が遠谷外十六販売店と取引したのはそのようにタイムス紙の供給を受けないことを条件としたものではないのであるにかかわらず、これをもつて条件付取引と判断するのは法の適用を誤つたものである。

(2) かりに原告の一連の行為が審決のいうようにタイムス見本紙の供給を受けないことを条件として新聞販売店と取引するものと見得るとしても、この行為には前記法条の要求する不当性が欠けているものであるから、これを同条にあてはめることは許されないのである。原告の一連の行為はタイムス社と札幌市内販売店との紛争に受働的に引き込まれた自衛行動ないし正当防衛ともいうべき行為であつて、それ自体不当なものではない。これを理解するためには新聞販売店の態様につき若干の説明を加えなければならない。

新聞販売制度については戦時中のいわゆる共販体制以前にはおよそ三種の態様があつた。(イ)特定社の直営販売店、(ロ)特定社の専売店、(ハ)各紙を扱う合売店(諸紙屋)がこれである。(イ)の直営販売店は本社の販売部の一部であつて、法律的にも経済的にも本社と一体をなすものであるが、その数は少い。(ロ)の専売店は特定社との契約により、その社又はその社系統の発行紙を専門に販売するものである。本社の黙認の下に他社の新聞を扱うことはあるが、これは好意的第二義的のものであつて、もつぱら所属本社のために忠実にその発行紙を扱う。しかし店そのものは法律的には独立した営業であり、ただ経済的関係において本社に従属しているものといつてもよいであろう。(ハ)のいわゆる諸紙屋は、一般には人口稠密でない地方において、各社の発行紙を平等に取扱うもので、一社にのみ忠実であるわけはない。これは法律的にも経済的にも完全な独立営業である。この種の販売店としては特定社の発行紙を拡張することは意味がなく、どの社の発行紙でもかまわないが、紙数の増加があればそれで足りるわけであるから、本社としては販路の拡張には物足りない販売店ということができる。

そこで本社の販売競争がはげしくなれば、各本社は専売店の数を増して、その専売店を通じて拡張することになるが、経費その他の関係で諸紙屋を廃してすべてを専売店にするわけにはいかない。

専売店から諸紙屋にいたるまでの段階において、その間に一線を劃して両者をはつきり区別することは困難である。いわゆる「複合専売」が介在するからである。「複合専売」といわれるものは戦後の合売から専売に移行する過程において生じたもので数社の発行紙を専門的に扱うものである。複合専売と諸紙屋との区別は極端な場合には概念上の区別に過ぎない場合もあり得る。

一般に直営でない専売店は、法律的には本社と販売店という相互独立の関係で、卸、小売の関係と形態は同様である。(イ)A本社が販売店と専売店契約をすれば、専売の本質上当該販売店は、A社の新聞紙その他の出版物のみを取り扱うもので、A社以外の紙は取り扱わない。これは純粋な専売店であるからA社のため拡張その他に献身的な努力をする。(ロ)しかし専売店が他紙を取り扱つても、A社の紙になんらの影響がないことがあり得る。読者層を異にする特別紙(例えばスポーツ紙)のようなものである。この場合A社は明示又は黙示的にその取扱を認めるが、それでもA社の専売店であることに変りはない。(ハ)一般紙であるA社の専売店が他社の一般紙を取り扱うことについては、A社は一般にはこれを認めない。対等な販売競争関係にある場合は専売店の意味がなくなるからである。この場合でも当該専売店がA紙を主として、いいかえれば第一義的に取り扱い、他の一般紙は従として取り扱う関係があり、他の一般がA紙にほとんど影響を及ぼさないときは、A社はその取扱を明示又は黙示的に認めることがある。A紙の利害に関係なく、A紙のみは献身的に取り扱うものだから、この場合でも専売の意味には変りはない。(ニ)ある社の専売店が他紙を扱うのはどこまでも本社の利益に反しない場合であつて、他紙を扱うことによつて本社の利益を害する場合は専売店の本質上許容されない。

A社がB社と共同してA・B紙のみを取り扱う専売店を設けることがある。これは前述の複合専売で、この場合は専売店はA・B紙以外のものは取り扱わない(但し前項(ロ)又は(ハ)におけると同様のことが起り得る)。A・B両社の関係は、例えば東京紙と地方紙というように、A・B両紙間の販売について特に利害が多くない場合であつて、道新と朝日、タイムスと毎日の各複合専売はこれに当る。故に明白に利害を異にする道新とタイムスとの複合専売というようなものは想像もできず、事実上も存在しない。

戦時中の新聞販売の統制からいわゆる共販制が実施され、販売店の統合が行われ、本社直営販売店又は専売店は解消した。終戦後統制は解けたが、なお用紙の統制があり、供給不足であつたので当然の帰結として各紙の発行部数が制限され、販売競争は起らなかつた。しかしそのうち用紙の供給が緩和され、また各種の新興紙の発行があつたので、ようやく販売競争のきざしが見えて来た上に、北海道においては朝刊紙(道新)が夕刊を発行し、夕刊紙(タイムス)が朝刊を発行するにいたり、完全な競争態勢が生じたのである。

販売競争がない場合には各紙ともに合売店で少しも差し支えないのであるが、競争がはげしくなり、又は新興紙があらたな読者を獲得するには、合売店は先にも述べたとおり決して都合のよい存在ではない。けだし大体新聞は飽和状態にあるから、販売店が、あらたな読者を獲得しようとしてもあまり目的を達しない。例えばA紙をとつており、他紙を併読する余裕のない家庭にB紙を売り込めば、その家庭では普通にはA紙を断らざるを得ないことになる。従つて合売店としては全体の紙数に変化がないわけであるから、特定紙の拡張にあまり熱心にはならない。そこで発行本社としては専売店を設けて販路を拡張することになるのであつて、本件発生当時でも各紙とも遠からず専売に移行することを予想していたと思われる。ただ原告として当時合売制堅持の方針であつたのは、道新紙の普及は大体満足すべき程度にいたつており、他紙と販売競争をする必要がなかつたからである。

ところで合売店が特定の一社例えばA社の専売店となつたとすれば、他紙にはいかなる影響があるか。かような場合その販売店はA紙を主として、第一義的に取り扱うことになるわけであり、この店が忠実にA紙の拡張をすれば、B・C等の読者の減少を来たすことになるわけであるから、A社と対等な販売競争関係にあるB・C等の社はこれを甘受しない限り、その販売店からB・C等の自紙を引き上げて別の販売店を作ることになるのは必然で、これは当然のなりゆきである。A紙の専売店となつた合売店がB・C等新聞の読者をA紙の読者にと切替工作をするならば、B・C等発行本社の不利益は一層大となる。また販売店が新聞紙代金の納入について専売しているA紙の本社には完納し、B・C等の本社には滞納するおそれがある。A・B・C等の読者からの新聞代は販売店としては一括して集金するのであり、その集金からA紙の本社にのみ完納されれば、結局B・Cの代金の一部を充当して完納するということになるのであつて、これはB・C等本社の甘受することのできないことがらである。従つて合売店が特定紙の専売店となり、しかも他紙を取り扱うことは他紙としては看過しがたい。

ある合売店からA紙が紙を取り上げて、ほかに専売店を設けることは別に差し支えない。この場合A紙以外を扱つている従来の合売店を各本社の複合専売とみるか、A紙を扱わない合売店とみるかは、見方の相違もあろうし、いちがいにはきめられない。しかし専売店は専売を標榜するものなのだから、むしろA紙を扱わない合売店と見るべきものであろう。

各本社が一の合売店を通じて販売している場合に、例えばA社がその区域において専売制を布くためには次の二通りの方法があるはずである。(イ)その地域において別個の専売店を設け、従来の合売店から自紙を引上げて取り扱わせる場合、(ロ)従来の合売店を自社の専売店とする場合。右(イ)の場合は他社例えばB・C等の社は要するに合売制度維持の方針が破れただけであるから、必ずしも自己の紙を従来の合売店から引き上げる必要はない。B・C等の社も専売にしたければ専売にすればよいだけであるが、対抗上は漸次専売に移つて行くことになる方が多い。右(ロ)の場合は他社B・C等はその発行紙が第二義的、いいかえればA社の利益に反しない限度で従的に取り扱われることになるから、いきおい自己の紙を取り上げ、同一地域で他に専売店を設けて対抗せざるを得ない。完全に専売制に移行するの余儀なきにいたる。この場合自己の不利益を甘受して従来どおりA社の専売店となつた販売店に取り扱わせる必要はなく、またこれを強制される理由はないのである。

ここにいう専売はいわゆる擬装専売を含むものである。擬装専売というのは、合売店が特定紙の専売店となることは他紙の怒りを買うゆえんであるから、自分は専売店を表明せず同一地区で自分の親族雇人等腹心の者を特定紙の専売店に仕立て、自分は他紙のみを扱う形式をいうのであつて、経済的には一体をなすものである。すなわち合売制からいえば一種の脱法手段ともいうべきものであるから、これを通常の専売と同視するのである。もちろん特定紙の専売をする者が合売店の親族雇人等であつたというだけでは必ずしも擬装と判断することはできないかも知れないが、発行本社としてはこれを第六感としてその擬装を感じ得るのである。すでにこれについて疑惑をもつ以上自衛的に行動することになるのはやむを得ないことである。

本件においてはタイムス社は右設例におけるA紙であり、原告ら他社はB・C等の社にあたる。タイムス社が一部専売工作をし、その結果石川販売店はタイムス社専売店に移行する準備をしてそのとおりになつたものであり、島倉販売店も同専売店に移行することを予定し他紙の切替工作をし、また久留宮販売店らはあきらかに擬装専売であるから、原告ら他社は前述のような不利益を受けない予防として石川、島倉らから自紙を取り上げたものであり、またこのように現在の合売店がある特定紙の専売店となるならば他紙を取り扱わせないということを表明したに過ぎない。この表明がいわゆる八社声明であるが、これは決してある特定紙を取り扱えば他紙を取り扱わせないといつているのではなく、特定紙の専売店となり他紙に不利益を与えるならば他紙は自衛上引き上げざるを得ないと表明しているにすぎない。これを要するに原告のこれらの行為はなんら違法のものではなく、独占禁止法にふれるものではないのである。

(三)  原告の主張に対する審決の判断は不当である。

審決は被審人たる原告が審判手続においてした主張に対する判断において不当な見解を示した結果独占禁止法第二条第六項第五号の適用において誤謬におちいつている。

(1) 合売制と配達能力の限界の問題。

原告は審判手続において、「合売制の下では各販売店は各発行本社を平等に取り扱うべきもので、甲紙を乙紙に切り替えるが如き不公正はゆるされない。さりとて各発行本社のすべての要求を平等に取り扱えるものではない。甲紙の要求に手一杯のとき乙紙の横槍的要求を受け入れなければならないものではない。不可能を強要することはできない。合売制は法律的に見れば一種の共有である。仮りに一頭の馬を共有するとき同時に共有者が利用することはできない。甲が馬に乗つているとき、乙もまたその馬に乗るとすれば馬は倒れる以外に途がなかろう。見本紙配布の問題は実に北海タイムス社の横槍から販売店との間に惹起されたトラブルである。合売制であるから平等に取り扱えというのはきわめて素朴的な、悪くいえば悪平等的な議論である。このことは本件において十分に考慮されなければならない。」と主張した。これに対し被告は審決において「……この点の被審人の主張は合売制の本質と配達能力の限界を混同したもの」としているが、原告は決してその点を混同したものではない。合売制の本質の平等ということが具体的の配達能力で自己制限を受けることがあり、本事案では現に販売店主が参考人として配達能力の不足を訴えている。ただ販売店に能力があるのに原告がこれを抑制して不配させたとする判断の誤謬を指摘しているのである。この点につき審決は独占禁止法の前記条項の解釈をあやまり結局同法に違反したものである。

(2) 八社声明の問題。

審決は原告の八社声明に関する主張に対して、八社声明は単に合売制維持のみを表明したものと断ずることはできないと判断しているが、すでに前述のとおり合売制維持のみを目的として表明したことはきわめて明白である。

(3) 見本紙の供給と経済上の利益の問題。

被告は審決において、見本紙の供給は経済上の利益の供与ではないとの原告の主張に対し、販売店が見本紙の供給を受けることは正に経済上の利益に外ならないと判断しているが、これは誤つている。もちろん「販路拡張に際し販売店が見本紙を受ける場合としからざる場合とを比較考慮すれば、その購読の誘致の点で著しい難易のあることは明白な事実で」あろうが、購読誘致は見本紙を撒くこと即ち販売店の努力の成果である。努力とは一種の負担である。特に見本紙の押付けは販売店にとつて不利益であり、それが強圧的のときは過重の負担となる。特に本件のように同時拡張をそのまま受け入れることは決して利益ではない。この点の審決は前記法条の解釈をあやまつた違法があるか、少くとも同条の適用につき独断に過ぎ不当である。

(4) 事情変更による取消の問題。

審決は、原告が本件事案は合売制下のことがらであり最近の新聞販売における専売制への移行の実情に照し事情変更があつたものとして審判開始決定を取り消すべき旨主張したのに対し、特に大部分の地方においてはなお合売制によるものと認められるからこの点の主張も採用するを得ないと判断している。しかし道内においてタイムス社と原告がそれぞれ専売制に移行したことは公知の事実である。審決のいう一種の共販(複合専売)というのは原告の専売店は東京三紙をも取り扱つているが、これは原告の専売を前提としているのであつて、いわゆる合売制の販売店の概念ではなく、専売の合同にすぎない。この点に関する主張をなんらの証拠調をせず独断的に断定することは違法である。

(四)  審決主文の命じた措置は不当である。

(1) 審決主文第一項について。

いわゆる八社声明は八社が共同意思の下に連名でしたものであるから、この声明が独占禁止法に触れるとするならば、他の七新聞社の加功行為も独占禁止法にいう不公正競争を採つたと認定されその措置としてこの撤回命令を受けることになる。しかし同声明は審判において被審人とならなかつた新聞社との合同行為で、これが撤回は合一にのみ命令されるべきものである。然るに他の新聞社をして審判に参加させる手続をとらず、原告に対してのみこの措置命令を下すことは違法である。

同声明は法律行為の要素である意思表示ではない。また法律的意義を有する観念表示でもない。単なる合売制堅持の方針を表明し販売店に注意を促した事実上の観念表示にすぎないから、過去の事実行為であつて撤回又は取消の対象になるものではない。そこで審決のこの命令は法律上の不能を強いるものであると思料する。

かりに法律上可能であるとしても、現在すでに道内において専売制に移行したのであるから、合売制堅持の方針を表明した声明を撤回してみても、客観的にもはや全く無意味となつているのであつて、実質的にはなんらの意義も影響もない。なんら必要性のない措置を命令することはそれ自体違法である。

(2) 審決主文第二項について。

この命令は原告が現に設置しており、またこれから設置する専売店との取引にまで不当に干渉するものである。合売制の販売店と専売店との間には本質的な差異のあることを看過していると信ずる。原告が資本を投下して専売店を設置した場合これに競争紙を取り扱わせないことは契約自由の原則の支配するところで独占禁止法違反ではない。原告は自分の専売店が他紙を取り扱うことを拱手傍観するように強要されるいわれはない。しかるにこの第二項は不当にこれを強要する違法なもので、ひいて憲法第二十九条の規定に違反する。

四、被告の主張に対する反論。

被告が本訴において主張するところは原告の主張を正解していないところに出ている。原告は決して専売の本質の観念論を弄んでいるものではない。新聞販売の専売制の観念ないし定義はしばらくおくとしても、八社声明にいう予想されるべき専売の実体を把握せずして原告の行為の不当性を論議することは、本末を転倒していると信ずる。原告会社の行為の不当性は独占禁止法という法律の規定の枠内で判断されることである。いかに行為が被告の眼に不当に映じたとしても、法律の枠内にないことは非難の対象にならない。原告が八社声明にいうようにある販売店が一社の専売店となるとき、自社の紙を取り扱わせないという趣旨は、専売店とは何かということをはなれてこれを理解することはできない。専売店の意味にして原告の解するとおりであるならば、本件行為は独占禁止法の枠外の事に属する。従つて専売又は合売の定義論は別としても、いわゆる専売の実体を把握しないで判断することはできないはずである。この意味において八社声明の不当性には実質的証拠がないこととなる。

本件における行為の不当性の有無は法適用の条件であつて行政措置の問題ではない。憲法第十四条にいうとおりすべて国民は法の下に平等である。独占禁止法の下においても同様でなければならない。同一の行為が甲については違法であり、乙については適法であるわけはない。被告は本件行為がタイムス社が原告を相手とした場合は不当性がなく、逆の場合にのみ不当性があるというが、かかる法の適用はあり得ない。ひとしく不当であることを前提として行為者がタイムス社ならば審判開始という行政措置を講じないというのであれば、取扱上の不公平の非難は別として、とにかく刑事訴訟における起訴便宜主義と同様に理解されることであるが、この点に関する被告の主張は法の適用と行政措置とを混同するものである。

「道内における実情は……繰返しのべた」としても、述べるだけで実情の裏付がなければ、認定の不当性は治癒されない。八社声明は地域を特定はしていないことは争わないが、合売店がある社の専売に走る場合発行本社の措置は地域又は販売店の大小によつて区別すべき理由はない。

原告会社が被告主張のように北海道において優位にあることは争わない。しかし八社声明は決して販売店がタイムス紙を取り扱わないことを希望していないし、またこれを強要もしていない。タイムス社の専売をやるならば道新紙を取り扱わせないというに過ぎない。タイムス紙の専売店とならず各紙と平等の立場で販売を継続している以上、八社声明はなんらの意味がないのである。ある社の専属的販売店として取引をしないことを条件として取引をすることは独占禁止法の下でも不当ではない。けだし他紙は第二次的取扱に甘んぜざるを得ないのであるから、自衛上自己の紙を取り上げて別個の販売制を布くことは当然であり、ここにはじめて平等の競争が実現するのだからである。

第二被告の答弁

被告代理人は原告の請求を棄却するとの判決を求め、答弁として次のとおり述べた。

一、審決の基礎となつた事実を立証する実質的な証拠がないとの主張について。

審決の「事実及び証拠」の部二について、タイムス夕刊が当時札幌市内において約三万八千部(この販売部数は道新朝刊紙数の六割強に当る)販売されていた事実もこれを見逃すことはできない。

同四の認定に対する原告の不服理由(第一、三(一)(1)(ニ))において「皮相な認定」であるという事実認定については原告はなんらの実質的根拠を挙げていない。タイムス社のこの時期における申入事実について「販売店に対して弾圧的すぎるもの」とする考えは独断である。審決書認定事実六及び七の事実はその後において生じた事実であつて、当初においてこのような事実の入り込む余地は全く存しなかつた。

同五の認定について、原告は「一部において自社の夕刊見本紙配達の完了するまで北海タイムス社の朝刊見本紙はこれを配達しないよう要請した」事実はないと否認するが(第一、三(一)(1)(ホ))、「特派部員中一、二行過ぎの言を吐いた者があつた」事実は明白に認めているところであり、被告の右認定にはこれに対する十分な実質的証拠がある。

同六の認定について原告は審決認定事実を認めながらなおタイムス社が販売店に対し「強圧的政策」をとつたというが(第一、三(一)(1)(ヘ))、かかる事実は一切認めることができない。原告はいかなる事実をもつて被告が「故意にこの関連性を省略している」というのか。

同七及び八の認定について原告の主張する点(第一、三(一)(ト)及び(チ))の実質的証拠は十分にある。

同九の認定について、審決はタイムス社が自社の不配地域に対して「専売店を設置した」とは認定していない。当時の緊急な状勢下において同社は「本社の直接配達をする」という応急措置によつて不配による読者の迷惑を最少限に食い止めたもので、その後現在のような扱いとなり、現在においてもなお専売の事実は認められない。この点の原告主張事実は否認する。

同十及び十一の認定について原告の主張はすべて否認する。原告の争う事実はすべて実質的な証拠によつて立証されている。

原告は原告の行為をもつて「自衛」というがあやまりであり、またいわゆる八社声明に関する原告の主張も失当である。八社声明こそ原告がタイムス社に対し自社の優越的地位を利用した決定的圧迫である。

以上のとおり本件に関しては事実そのものについては原告もおおむねこれを争わず、すべて見方の相違であるということができる。すなわち外形的事実自体は原告も大体においてこれを認めており、原告抗争の趣旨は(イ)タイムスの不配は原告の指図ではない。(ロ)新聞店の改廃は自衛である。(ハ)八社声明は単なる合売制維持を標榜したものに過ぎない、という三点に要約されるが、(イ)のタイムスの不配が原告の不当な圧迫に基因するものであることは明白である。(ロ)の点は全く原告の独断であり、逆にその改廃は新聞店に対する原告の一つの圧迫手段である。また(ハ)の八社声明についての原告の主張は失当である。要するに審決認定の事実についてはすべてこれを立証する実質的な証拠が存する。

二、審決は法の適用を誤つているとの主張について。

この点についての原告の主張に対しては審決で述べているところと同じであるからここに重ねて付言するところはない。ただ原告は、新聞販売におけるいわゆる専売合売の問題につき両者を峻別することによつて、専売制の下においては発行本社同志あるいは発行本社と販売店との間では他紙排斥は当然のことで、そのこと自身なんら不当性がなく、いわゆる八社声明も単にこの意味を宣言したものにほかならないと抗争するもののようであるが、ここで専売の本質をどうみるかという観念論を云々することは本件では問題ではない。というのは本件に関する限り専売あるいは合売がいかなるものであるべきかという定義論を前提として問擬しているのではなく、審決冒頭の事実において述べたごとく、道内の新聞販売面の実情を基底として原告のとつた行動そのものから不当性を認定しているもので、しかも原告の強大さ(沿革的にも、発行部数においても、また系統販売店の把握においても)は、地理的に孤立した立地条件と相まち中央紙といえども容易に追従し得ず、かかる特殊事情は一朝一夕に変化すべきものでなく、近時東京その他大都市におけるいわゆる専売合売のあり方とは全く色彩を異にし、これらを同一に論ずることはできない。

八社声明について、これをきわめて弱少なタイムスが道新を相手として出したというような逆の立場を仮定する場合には、本件にいう不当性を生ずる余地はないともいえるが、他紙を圧する勢力を有する道新が発したればこそ一連の事実と綜合して不当性を推認し得るので、道内の販売店が道新紙を扱い得ないとすれば残りの他紙のみではいずれも成り立つてゆかぬわけであり、だから札幌、小樽のような道内大都市にあつても、なおいわゆる複合専売が行われている現状である。またかりに原告がいうように専売と合売とを分けて考えるにしても、道内における実情は東京などにおけるように、しかく判然確定したものでないことは繰り返しのべたとおりである。本件はこのような具体的事案をとらえて不当な排他的条件を付した取引と認定したもので、原告の主張するように専売合売の意義を解明しなくても、原告の所為の不当性を断定するに欠けるところはないと信ずる。

原告の事情変更についての主張は、審決において述べているように、道内における販売機構は札幌小樽その他道内の一部において一種の共販制すなわち複合専売がとられているだけで、なお大部分の地方においては依然として合売制が行われており、この事実は東京その他大都市における近時の専売とは全く意味を異にしたもので、このような実情は原告もまた事実を直視すれば容易に理解し得るところである。しかも原告が八社声明において地域を特定せず北海道全域を対象としている以上、本件審決は推持されるべきであることは明らかである。

三、審決主文の命じた措置は不当であるとの主張について。

(1)  審決主文第一項について。

いわゆる八社声明は、審決認定のとおり一連の行為の結果、原告が道内各紙を誘引して本声明を発するにいたつたもので責任はあくまで原告が負うべきものである。主文第一項が他の七社に対して触れることがないのは原告以外はなんらの違法もなく、従つてこれら各社を加えて審判の対象とする必要も全く存しないからである。すなわち審決の認定事実のような一連の行為を経て原告が八社声明に名を連ねることによつて原告の所為は、タイムス社に対する関係において違法性を生ずるもので、他社がこれに単に名を連ねたのみで原告と合一に措置されるべきものではない。審決主文の命ずるところは、原告が八社声明を単独で撤回し、その責任を明確にすれば十分であり、事実かかることは可能である。また被告は道内においては現在においても完全な専売制に移行しているものとは見ないから、かかる過去の事実行為がある限り、これが撤回を命ずるのは当然必要な措置である。

(2)  審決主文第二項について。

審決主文第二項に命じた事項は道内において合売制が行われている限りにおいて同様の事態の生起することを禁じたもので、従つて原告主張のごとき憲法違反の問題を生ずる余地はない。

第三証拠関係<省略>

三、理  由

一、審決の基礎となつた事実を立証する実質的な証拠がないとの主張に対する判断。

被告は本件審決の基礎たる事実として別紙審決書(写)「事実及び証拠」の部第一の一ないし十一記載のような事実を認定したものであるところ、これに対し原告はその事実を争い実質的な証拠がないと主張するから、順次これについて検討する。

(一)  審決認定の右一ないし四の事実は大体において原告の認めるところである。従来朝刊紙のみを発行していた原告が昭和二十五年三月以来夕刊紙を発行するにいたつたが、札幌市内におけるその夕刊の普及率が原告の予想に反して朝刊の六割に及ばなかつたことについては、原告は当時同市においてタイムス夕刊が約三万八千部販売されていたことがその原因ではなかつたと主張するが、審決は右タイムス夕刊の点のみを原因としてあげるのではなく、原告の主張するような朝夕刊の記事の重複すなわち記事編集の不手際もその原因であるとしているのであつて、ただタイムス夕刊の市内販売数が約三万八千部であることが事実である以上、この事実もまた道新夕刊が予想どおり普及することをはばむように働くことは否定し得ないものといわなければならない。

同四の認定のうちタイムス社が道新の拡張計画に対抗して昭和二十六年十一月二十三日夕刻から市内各販売店に社員を派し、でき得る範囲内において道新朝刊と同数のタイムス朝刊の拡張を懇請したことは原告の認めるところで、その結果「若干の販売店を除きおおむね承諾を得た」との事実は、審決の挙げる証拠でかつ被告が本件訴訟で引用する審判手続における参考人伊藤利孝、田島繁得、福田精一郎、佐竹文雄、藤本要、伊藤賢、田中健治、石川信三、遠谷十郎、若林千代、藤堂敏雄の各陳述をあわせてこれを認めるに十分である。原告はタイムス社の申入は原告に対しては横槍的であり、同社の実力からして原告の朝刊紙と同数の朝刊拡張の要求は販売店に対し弾圧的に過ぎると主張するけれども、すでに昭和二十五年三月末以来道新もタイムスもともに朝刊及び夕刊を発行して互いに競争関係に入つているところ同年十一月頃にはなお朝刊について道新、夕刊についてはタイムスがそれぞれ販売部数において他にまさつていたのであるから、道新がさらに夕刊について多数の販路拡張を計画して実行しようとするにあたつては、タイムスの既得の販路に対して影響のあることは当然であるのみでなく、同一地域の読者を対象とする限り道新の拡張計画が成功した後においては、タイムスがあらためて自紙朝刊の拡張計画を実行しようとしても十分な効果を期待し得なくなることはみやすい道理であるから、タイムス社としてこれを拱手傍観し得るものではなく、自己もまた道新紙と同一の条件のもとに同時に販路の拡張を図ることは当然の措置というべく、ここに両者がさらに大規模な販路競争に入ることは必然のなりゆきであつて、タイムス社のこの措置をもつて原告に対する横槍的妨害とみることは相当でない。またタイムス社が道新朝刊と同数の朝刊の販路拡張を各販売店に求めたのは、審決認定のように「でき得る範囲において」することを求めたに過ぎず、仮りに各販売店が道新朝刊と同数のタイムス朝刊の拡張をなし得なかつたとしても、そのことの故にその販売店に対しなんらか不利益な措置をとるべきことを示唆したというような特段の事情は本件においてあらわれていないのであるから、タイムスのこの拡張計画をもつて販売店に対し弾圧的にすぎると解する理由はない。

(二)  審決認定の五の事実について。原告はタイムス社の道新朝刊と同数の朝刊の販路拡張のため見本紙の配布を要求することが、原告に対する妨害行為であることは客観的事実であり、原告が単に主観的にそうみなしたものではないというけれども、原告の拡張計画と時を同じくしてタイムス社もまたその拡張計画を実行することは、原告にとつて当初の計画が支障なく遂行されて成功を収める上において望ましからざる事情であることはこれを諒し得るとしても、これは本来競争そのものの宿命であつて、また販売店に対してタイムス社の要求はあらたな負担となることは明らかであるが、各販売店は一旦はおおむねこれを承諾したものであり、他にタイムス社がもつぱら原告の既定の計画妨害の目的をもつて、これをあえてするという事情は、本件において認められないところであるから、タイムス社のこの拡張計画をもつて直ちに妨害行為そのものと見るのは当らない。

しかして審決の挙げる証拠でかつ被告が本件で引用する審判手続における参考人麻生勝郎、石川信三、森武敏、加藤勝衛、畑中宏仁こと畑中重太郎、西条正一郎の各陳述をあわせれば、原告は同年十一月二十三日夜すでに夕刊見本紙配布の後タイムス社の動きを知つて道新販売部員を市内各販売店に派遣して予定どおり自社の見本紙の配布に支障のないよう督励するに際し、一部において自社の夕見本紙配布の完了するまでタイムス朝刊見本紙はこれを配達しないよう要請した事実のあつたことはこれを肯定するに十分である。原告は販売部員の派遣は見本紙配布を督励するためでタイムス見本紙配布を妨害するためではないと主張するが、原告がこの時期においてあえてタイムス妨害の意図を有したものと解すべきではないとしても、現に一、二行きすぎの言を吐いた者のあつたことは原告の自認するところであり、審決認定のような一部にはタイムス見本紙不配の要請も行なわれているところで、タイムス社の申入にかかわらず、自社の見本紙の配布だけは支障なく実行せよということ自体、原告の意向の那辺にあるかを推測せしめるに足りるものであつて、これがその以後の販売店の行動にある種の影響を及ぼしたであろうことは否定し得ないところである。

(三)  審決認定の六の事実もおおむね原告の認めるところである。販売店らが同月二十四日の協議においてタイムス見本紙の配布は道新見本紙配布期間後に行うとの意向に傾くにいたつたことは、いつたんそのまえにタイムス社との個々の交渉においてはタイムス見本紙配布を承諾している事実からみれば、各販売店が単に自主的にタイムス見本紙配布を過重と判断した結果のみでないことはおのずから明らかである。原告がすでに事前に重大な決意をもつて夕刊拡張の事業に乗り出し、各販売店に苦衷をひれきして協力方を求めていること、タイムス見本紙配布申入の直後原告の販売担当員が販売店を廻り予定どおり道新朝刊見本紙は支障なく配布するよう激励し、一、二行きすぎのところさえあつたという情況のもとでは、販売店側としては、とにかく道新見本だけは配布しなければならぬと感ずることはみやすいところである。その結果右二十四日協議の後遠谷ら販売店代表がタイムス社と交渉したが、会談は物わかれになつたことは審決の認定するところである。原告はこれはタイムス社の販売店に対する強圧的政策のためであると主張するが、合売のたてまえからすれば、タイムスが原告と同様に見本紙の配布を要求することは販売店に対して二重に負担を加えることにはなるけれども、その点では原告も同様であり、原告が先にこれを決定したから負担にならないというものではなく、タイムスの申入を直ちに販売店に対する強圧的政策と見るべきでないことは前述した。しかしともかくタイムス社としては販売店らの右申入にも拘らず、当初の計画を放棄もしくは変更しなかつたことは審決の認定するところであり、この事実がその後の事態の発展に対し背景をなしていることは審決の認定自体からこれを観取するに足り、審決が故意にこの関連を省略したと非難するのは当らない。

(四)  審決認定七の事実について、原告は右事実中販売店が原告会社会議室でタイムス見本紙配布問題につき協議したこと、及びタイムス社の申入を拒絶することに決定し、十四販売店が同見本紙の大半を放置して配達しなかつたことのみを認めその余の事実についてこれを争うものである。この点における審決認定の事実の要旨は札幌市内十七販売店のうち、森、畑中、石川らを除くその余の十四販売店がタイムス社の要求にかかわらず、タイムス見本紙の大半を配達しなかつたのは、原告がそうするように影響を及ぼしたものであるというに帰する。これについては審決の挙げる証拠で被告が本訴において引用する審判手続における参考人石川信三、森武敏、鶴谷弥八郎、麻生勝郎、西条正一郎、田中健治、一柳謙一郎の各陳述をあわせれば、同年十一月二十四日以来各販売店はタイムス朝刊見本紙配布問題について協議を重ね、二十七日も原告会議室においてこれを協議したが、これらの会議中新聞販売店の組合(新聞販売同業組合北海道連合会、札幌地方新聞販売同業組合、札幌市新聞販売同業組合)の幹部である遠谷後藤らはしばしば会議中の販売店主らを長時間待たせて原告会社幹部の鶴谷(当時原告会社業務局次長)麻生(同販売部長)らと連絡をとり、その機会において遠谷後藤らから会議の模様の報告があつたこと、二十七日の会合には鶴谷も協議中の席に立入つて販売店らを激励するとともに道新にさえ従つておれば間違いはないという趣旨のことを述べたこと、これらの会議の空気は次第にタイムスの申入拒否の方向に傾きこれに反対する意見の表明に対しては直ちに組合幹部らから強い反ばくが加えられてほとんど取り上げられなかつたことを肯定するに十分である。

この事実とすでに検討した審決認定の事実とによつて考えれば、夕刊の販路拡張のため見本紙を配布することについてはすでに事前に販売店の諒解を得ていたことであり、この期に及んで道新が単に自社の既定の方針の遂行をはかるということだけならばあらためて鶴谷ら幹部から販売店に対し右のような申出をする必要はないばかりでなく、すでに原告側はタイムスの拡張計画をもつて自社に対する妨害行為と見ているところであるから、タイムスの申入に拘らず、原告としては既定の方針どおり遂行を望むということをもつて激励する以上、販売店としては、かかる妨害を排除して進め、それに対してはわが社は面倒を見るというのが道新側の意向であると判断するは当然であり、また会議中の各販売店を長時間待たせて組合幹部らが原告会社幹部と打合せをしており、会議の空気が漸次タイムス申入拒否に傾くにいたつては、道新の方針はこの際販売店がタイムス申入拒否を望むにあり、それが組合幹部を通して会議の空気に反映したものとして大多数の販売店がこの道新の意向にそうような行動をとるにいたつたものと推認すべきである。これと審決がその冒頭に認定したような道新の北海道における発行部数、系統販売店の把握等における優越的地位とを考えあわせれば、同日多数の販売店がタイムスの申入を拒否することを決定したのは原告の意向に影響されたものであることはこれを肯認するに足る。原告の引用する各証拠によつては右認定は左右されない。しからばこの点の審決の認定は実質的証拠により立証されているものというべきである。

原告は、道新は他紙の不配を要求するほど他紙に脅威を感じているものではなく、かようなことによつて業界を混乱させることは実質的にむしろ原告にとつて不利益となるからタイムスの不配を要求などするはずはないという。なるほど原告は当時発行部数六十一万余、道内新聞販売の約五十六パーセント、札幌市内の約四十五パーセントを占める優越的地位にあるから、原告及び他紙がともに市場におけるこの割合に安住する限り業界は平和を保ち得たであろうけれども、本件においては原告先ず札幌市内における夕刊の大拡張を策してその実行に入るや、時を移さず、タイムスまたこれが対抗策に出たため、本件事態の発生を見るにいたつたものであり、ここにおいて原告がその拡張に成功すればタイムスはその既得の販路の縮少を余儀なくされ、タイムスが制覇すれば原告はその既存の版図の若干を失わなければならない関係にあることは、当時札幌市という市場の広さと道新タイムス両紙の普及率を考えれば、容易に理解し得るところである。このような場合他紙すなわちタイムスの不配が原告に何物をももたらさぬとするのは原告の強弁にすぎない。道新販売店の九〇パーセントを自社の系統販売店として把握する原告として、業界の混乱はむしろ不利益とすることはこれを諒解し得るところである。しかし業界の混乱はむしろその後の事態の発展と見るべきであり、当時原告としてもそこまでの認識はなかつたであろうから、これによつて原告がタイムスの不配を示唆したことのない証拠とするには足りない。

(五)  審決認定の八の事実について、この事実は審決認定の七の事実の発展としてあらわれたところであることはおのずから明らかであるところ、札幌市内十七販売店のうち森、畑中、石川の三店及びタイムス社から取引を廃止された遠谷販売店を除くその余の販売店が、タイムス社から従来どおり取引継続方を懇請されたに拘らずタイムス本紙の不配を決意するにいたつたのは、当時合売制がたてまえであり、販売店としてはタイムスを扱わないことは当面その営業上の減収を伴い、まさに死活の問題であるのに、あえてこれをしたことを考えると、たんに遠谷販売店に対するタイムス社の取引廃止を撤回せしめるためにした、もしくはタイムス社に対する反感からした、各販売店の自発的行為というよりは、その間なんらか外部からの影響の結果であると推測せしめるものであつて、これに審決の挙げる証拠で被告の引用する審第三号森武敏の供述調書中の記載及び前示のような見本紙配布問題の発端からの原告の意向、その販売店の上にもつ勢力とをあわせ考えれば、各販売店がかかる決意をするにいたつたのは原告の暗黙の影響に支配されたものと認めるのを相当とする。この点の審決の判断を独断皮相というは当らず、その認定は実質的証拠によるものというべきである。

(七)  審決の九の認定は原告の争わないところである。これにあわせて原告は、タイムス社は遠谷ら十四販売店の不配地域には専売店を設置したとし、このことが専売制を極度におそれる販売店及び他社に対する独裁的挑戦となつて次の審決認定十及び十一の事実を導いたというが、審決は右不配地域に直ちにタイムス社が専売店を設けたことは認定していないのであつて、その認定をしないことのあやまりであるゆえんは見出し難い。

(八)  審決の十及び十一の認定につき、原告が昭和二十六年一月二十日石川販売店を、次いで同年二月六日岩内町島倉販売店を改廃したこと及び同年二月原告外七社がいわゆる八社声明を発したことはその認めるところである。

原告は石川販売店に対し同店扱いの東京各紙の販売取扱につき妨害せしめたこと、島倉販売店をして東京各紙も返上せしめるの止むなきにいたらせたことはないと主張するが、審決の挙げる証拠で被告の引用する審判手続における参考人西条正一郎、石井末広、石川信三、大場安三、島倉英吉の各陳述をあわせれば、原告は、市内販売店の大多数がタイムスとの取引を止めた後も依然としてタイムスを扱つていた石川販売店に対して、昭和二十五年十二月中から、タイムスを扱うなら道新紙を返上せよと申入れていたが、同店は合売制のたてまえもありこの際道新紙を失うことは営業収入の上に多大の打撃があるし、さりとてタイムスを失うことも同様の関係にあつてその態度を決しかねていたところ、結局昭和二十六年一月二十日付で原告から一方的に改廃されるにいたつたのであるが、当時原告はこのいきさつを各新聞発行本社の販売担当社員からなる担当委員会、また各販売部長からなる部長会等に通告した上、自社の担当員らをしてこの際東京各社も石川販売店からそれぞれ自紙を引き上げることとするよう働きかけ、その結果東京各社なかんずく朝日及び読売の担当員らは何回となく石川に対し東京各紙を返上するよう交渉したこと、また島倉販売店に対しても同様原告は改廃の上、担当員会に働きかけて島倉をして東京各紙を返上せしめるよう申入れ、その結果読売及び毎日の担当員が島倉方に赴き、担当員会できまつたことだからとて東京各紙の返上を求め、島倉はやむなくこれを承諾するにいたつた事実は、これを認めるに十分であり、東京各社が自紙を引き上げることはそれら各本社の自由であるとしても、これをしてそこにいたらしめたのが原告であることは明らかである。また原告が久留宮、森、畑中ら各販売店に対し、タイムスの放棄を強要し、また東京各紙の返還を迫る等の圧迫を加えたとの点については、審決の挙げる証拠で被告の引用する審判手続における西条正一郎、石井末広、木村茂、大場安三、森武敏、畑中宏仁こと畑中重太郎、鶴谷弥八郎、久留宮新十郎の各陳述、審第一号久留宮新十郎の供述調書及び審第三号森武敏の供述調書の各記載をあわせれば、札幌市内十七販売店の大多数がタイムスとの取引をやめた後も石川、森、畑中三店のみは依然としてタイムスを扱つていたところ、原告は石川を先ず前記のとおり改廃した上、森、畑中に対しては「他の業者はタイムスを止めたのだから君もはつきりした方がよい、道新一本でやつてくれ」とか「みんなほかの人がタイムスを投げたのに君だけがもつておることは外の組合員の感情上も面白くないからこの際分離せよ」などと申し向け、その結果森、畑中らはタイムスを自ら扱うことは許されぬと考え、別の縁故者をしてタイムスを扱わしめることとしてこれを分離するにいたり、また久留宮に対しても「タイムスを扱うなら道新をやめよ」と申入れ、また前記八社声明を楯にとりタイムスを扱うなら東京各紙も扱わせないように信じさせ、ために、同人は妹むこの大橋某をしてタイムスを扱わしめ自分はこれを扱わないようにしたところ、なお原告はこれをもつて「大橋がやるのは君がやるのと同じだ、タイムスはやめよ、そうすれば道新では保証する」との趣旨を申し渡し、もつてタイムスの放棄を強要したことを認定するに十分である。原告は、右のような販売店に対する改廃もしくは申し入れ又は八社声明のような行為は、タイムス社の攻撃に対する自衛であるといい、その前提として石川販売店はすでにタイムスの専売店に移行する準備をしており、現にそのとおりになつた、島倉販売店も専売に移行することを予定し新聞紙の切替工作をし、また久留宮ら三店は明らかに擬装専売であつたと主張する。しかしこの点の原告の行為の当否は後に判断するとして、原告がその前提として主張する右の各事実はいずれも審決の認定しないところであるのみでなく、本件がいわゆる合売制下に起つた事実であることは審決認定の事実及び本件口頭弁論の全趣旨から明らかであつて、石川、島倉らが後にタイムス専売店に移行した事実があるとすれば、それは原告の本件行為により原告との取引を止めざるを得なくなつた結果とみるべきで、審決の認定に影響を及ぼさない。石川販売店の紙代納入成績の点についても、前記参考人石川信三の陳述によれば、そのことのためにあえて改廃されるほどのものでないことがうかがわれるから、この点の審決の認定にあやまりはない。

また原告は、久留宮ら三店はいわゆる擬装専売であつたと主張するが、同人らが自己の縁故者をしてタイムスを扱わしめたのは、道新販売店にはタイムスを扱わせないとする原告の政策の結果にもとずくことさきに見たとおりであり、原告の引用する証拠によつては右認定を左右するには足りない。この点の原告の所論は事の順序をあやまつているものというべきである。

(九)  要するに審決がその基礎として認定した事実はすべて実質的証拠により立証されているものといわなければならない。この点に関する原告の主張はすべて理由がない。

二、審決は法の適用を誤つているとの主張に対する判断。

審決はその認定した原告の一連の行為は原告が自己の競争者たるタイムス社から見本紙あるいは本紙の供給を受けないことを条件として北海道全域特に札幌市を中心とする地区において新聞販売店と取引するものであるとして昭和二十八年法律第二五九号による改正前の独占禁止法(以下たんにこれを独占禁止法という)第二条第六項第五号に該当し同法第十九条に違反するとしていることは審決自体により明らかであり、本件については前示昭和二十八年法律第二五九号私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律(昭和二十九年九月一日公布即日施行)附則第四項第三項により右改正前の独占禁止法の適用があることについては疑がない。原告は被告の右改正前の法律の適用において違法があると主張するものである。よつてこれについて検討する。

(一)  原告は、原告が遠谷外十六販売店と新聞販売につき取引したのはタイムス見本紙又は本紙の供給を受けないことを条件としているのではない、これを条件とする取引であると判断することはあやまりであると主張する。

しかし審決認定の一連の事実によれば、少くともタイムス社がその朝刊の販路拡張のため見本紙を配布しようとした時以後においては、札幌市内の原告と取引ある各販売店がタイムス見本紙あるいは本紙の配布を拒絶するにいたつたのは原告の所為の影響であり、現に引き続きタイムスを扱つた同市石川販売店に対しては新聞販売契約を解除し、また同市内森、畑中ら販売店に対してはタイムスの放棄を要求する等の所為があつたことは明らかであり、これらを通覧すれば、原告は取引の方針としてタイムスを扱う道新の販売店に対してはタイムスの放棄か道新の改廃かの択一的関係をもつて当るのであつて、結局その原告と取引する販売店については、その店がタイムスを扱わぬことを条件としてはじめてそれが可能であるということになるのであるから、かかる取引行為は法第二条第六項第五号にいう条件付取引たるを失わないものといわなければならない。この点については審決に法の適用のあやまりがあるとはいい難い。

(二)  次に原告は、原告の行為については法の要求する不当性の要件が欠けているものと主張する。この点の原告の主張は、新聞販売の態様についていわゆる専売店と合売店とを区別し、専売店は原則として特定発行本社の発行紙のみを扱うとともにそれを第一義的に扱い販路の拡張その他につき本社に対し献身的な努力をするものであり、合売店は各社の発行紙を平等に取り扱うものであるとするたてまえから、従来合売店であつたものが一社の専売店となつた場合は他社はその店においては当然第二義的に扱われ、すべての点に不利益を受けることとなるので、この販売店から自紙を引き上げて別にその販売を行うことは当然のことでなんら不当なものではないとの所論に発しているのである。

いわゆる専売店合売店の実態がそのようなものであるとする限り、ある社の専売店となつた者には他の社は自社の発行紙を扱わせないというのは当然のことといい得るであろう。しかし本件における事実はいわゆる合売制下の事実であることは審決の認定するところであり、タイムス社が道内一、二の地区でいわゆる専売を施行した事実はあるが、その他の地区においては依然として合売制を持しており、特に札幌市を中心とする地区においてはタイムスの販路拡張のための競争はかかる合売制のたてまえを前提として開始されたものであることは審決認定の事実からおのずから明らかであり、石川、島倉その他の問題の販売店が当時タイムス社の専売店であつたことはこれを認め難いこと前記一の判断において示したとおりである。(しかもその専売から合売にいたる段階は必ずしもしかく判然としたものではなく、場合によつては概念的区別に過ぎないもののあることは原告の自ら主張するところである)。

従つて原告が審決認定のような条件を付して取引することが、不当なものであるかどうかを論ずるには、この現実の前提から出発すべきであつて、原告の主張が本件行為をもつてそのいうが如き判然とした専売制への切換に対抗するためのものであるとする限り、その立論の基礎を異にするものといわなければならない。

しからばいかなる意味において本件の条件付取引が不当のものといい得るのか。思うに独占禁止法は私的独占及び不当な取引制限を禁止して一切の競争制限行為を排除し、もつて自由競争を可能ならしめる経済的基盤を提供するとともに、自由競争の赴くところ、いきおい不公正な競争方法を誘致することを保し難いので、さらにこれを規整をして公正ならしめ、もつて自由競争における正当な秩序を維持しようとはかつているものである。すなわち自由競争はこれを確保しつつ、競争方法そのものは公正ならしめようとするところに主眼がある。この故にここで不公正な競争方法として禁止されるべきは本件のような条件付取引いわゆる排他約款付取引をも含めて、いずれも不当なものでなければならないとすることはおのずから明らかであり、法の明文もまたこれを規定する。しからば同法第二条第六項各号の列挙する各競争方法にしてその外形が列挙の要件にあたるもののうちでいかなるものがここにいう不当なものであるかといえば、これを抽象的にいう限り結局公正な競争を妨げるおそれのある一切のものをいうとするほかはない(改正法第二条第七項第四号、公正取引委員会告示第十一号「不公正な取引方法」第七号参照)。

一般に相手方が自己の競争者から物資等の供給を受けないことを条件としてこれと取引することは、それ自体は違法ではない。ある事業者Aがかかる競争方法をとつても、その競争者たる別の事業者Bにとつて、Aと取引ある者を除外してこれに代るべき取引の相手方を容易に求めることができるかぎり、Bはこれとの取引を通じて価格、品質、数量、サービス等のいわゆる能率による本来の競争により、その市場への進出は少しも妨げられないところであるから、Aのかかる競争方法はなんらBに対して脅威となるものでなく、結局において公正な競争を妨げるものといい得ないこととなるであろう。しかしそうでない限り、Bはその競争の条件においてすでに不利益を受け、本来の競争による市場進出はAによつて人為的に妨げられることとなるわけであるから、Aのかかる競争方法は不当なものとならざるを得ないのである。

これを本件についてみるに、先ず原告は審決認定のように道内において発行されるすべての新聞紙の五十六パーセント、札幌市内のそれの四十五パーセントを制し道内全新聞販売店の九十パーセントをいわゆる系統店として把握するという巨大な経済力を具有する事業者であるが、かゝる経済力の存在はたんに審決認定のような競争方法が原告によつて人為的にとられ得た契機たるの意味を有するに止まり、審決もそのことをもつて右競争方法を不当ならしめるものとしているのでないことは審決自体によつて明らかである。しかし従前合売制の維持され来つたところで原告が各新聞販売店に対し自己と取引する限り競争紙たるタイムス紙を扱い得ないことを条件とするときは、タイムスは自己の新聞の販売については原告と取引ある既存の合売店を用いることを得なくなるのであり、これに対処するためにはあらたに直売もしくは専売の販売制を採るか、又は原告と取引のない別個の合売店を見出してこれによつてその販路を開拓せざるを得なくなるのであり、殊に予約購読制を原則とする新聞販売において、すでにその競争の条件において多大の不利益を受け、その当面する困難はあたかも既存の市場に入り込む新来の競争者のそれにも比すべきものである。かくてはその北海道という特殊の立地条件と相まつてタイムス社がその商品たる新聞の販売において価格、品質、数量、サービス等をもつてする本来的競争によつて市場に進出することは原告のこの人為的措置によつて妨げられることとなるのであつて、これこそ自由競争を公正なものに規整しようとする法の理念に背くものというべく、かかる条件を付する取引は結局不当のものと断ぜざるを得ない。この点の原告の主張は理由がない。

三、原告の主張に対する審決の判断は誤りであるとの主張に対する判断。

(一)  合売制と配達能力の限界の問題。

原告の主張するところは要するに、見本紙配布の問題について各販売店が道新見本紙の配布にあたろうとしているとき、さらにあらたにこれと同数のタイムス見本紙を配布すべきことを要求するのは、販売店の配達能力の限界を超えるものであり、各販売店がタイムスの要求を拒否することは当然のことであるとして、これを原告の責任に帰せしめられるべきでないとするもののようである。しかしタイムス社が原告の見本紙配布に対抗して自紙の見本紙配布を、できる範囲で各販売店に要求したときは、個個の販売店は一部のものを除いてはおおむねこれを承諾し、現に当初はその要求に従つてこれを配布したのみではなく、その後においても一時はタイムス夕刊紙と同数の朝刊見本紙ならばこれを承諾する意向を示したことは審決の説明するとおりであり、この事実は審決の認定したところであるから、これによつて考えれば各販売店の配達能力にはかなり弾力性があるとし、原告の主張は合売制の本質と配達能力の限界とを混同したものであるとしてこれを排斥した審決の判断は正当である。

(二)  いわゆる八社声明に関する問題。

原告はいわゆる八社声明は合売制維持のみを目的としたものであると主張したのに対し審決はこれを否定したことは原告所論のとおりである。いわゆる八社声明は「冠省御承知の様に最近某社の販売政策は除々に積極化して参り各地の販売所構成員間に働きかけ為めに業界一般に不安の念を与えてゐる様であります。一社の専売店に走つた場合依然として吾々の新聞を取扱つて行けるとの誤解が更に混乱を深めているとも考へられますが既に御承知の様に吾々はあくまで合売制度を堅持して行く方針に変りない事を重ねて申上げると共に念の為御注意致して置きます。万一貴地に於て緊急の事態が起きた場合は速かに関係各社の担当員に御連絡の上行動され後日遺憾の点のない様充分の御注意を払れん事をお願い申上げます。昭和廿六年二月」とあつて道新外七社がその名を連ねているものである。(審第二十号)。この文言のみを見れば、販売店が一社の専売店に走つた場合他紙はこれを引き上げるということを宣言し合売制堅持の方針をうたつたもののように見える。しかし本件において原告はまだいわゆる専売にならない以前において、合売制のたてまえで従来どおりタイムスを扱つていた石川、島倉両販売店に対して自紙を取上げ、その他久留宮、森、畑中らの販売店にもタイムスの放棄を要求している事実その他総じて審決認定の如き諸事情を背景にして考えれば、ここでいう専売とは本訴において原告の説明するような純然たる専売をさすのでなく、原告に関する限りは、要するにタイムスを扱う限り自紙は扱わせないとする意図の表明と見るのが相当であり、審決がその点に関し「その作成の経緯、経過及びその内容を検討し、また上記のような前後の事情を考えればたんに合売制維持のみを表明したものと断ずることを得ない」としたのはまことに相当であり、この点の審決の判断にあやまりはない。

(三)  見本紙の供給と経済上の利益の問題。

原告は見本紙の供給は経済上の利益の供与でないと主張したのに対し審決はこれを斥けた。独占禁止法第二条第六項第五号は相手方と自己の競争者との取引を不当に妨げ競争者に打撃を与える競争手段を規定しているのであつて、相手方に対して経済的不利益を強いることを規定したものではない。従つてその供給を受けることがその者にとつて経済上利益であるか不利益であるかの問題とは全く別個の問題である。本件においても見本紙の供給、すなわち販路拡張の手段として無代の見本紙を撒布するためその供給を受けることそのことが問題であり、これが物質その他の経済上の利益の供給というべきことは多言をまたないところである。本件において販売店が見本紙の供給を受けることが販売店にとつて経済上有利なりや不利なりやの如きは本来全く無用の論議である。審決のこの点の説明はこれと異なるけれども、見本紙の供給を受けることが本条項に該当するとする点において正当であり、原告の主張は理由がない。

(四)  事情変更による取消の問題。

原告の主張は本件審判開始決定以来審決の時までに事情に変更があつたから審決の必要がないのに、被告はあえて審決をしたということを攻撃するものである。しかし審決は原告主張のような事情の変更はこれを認定しなかつたものであり、その前提に立つ限り、審決がその基礎として認定した事情はなお存するものと認めるべきであり、被告は現に本訴においても原告主張のような事情の変更を争つているのであるから、ここであらたに審決の認定しなかつたこれと反対の事実を認定し得べき限りではない(本件審決当時北海道一円において道新紙とタイムス紙がそれぞれいわゆる専売制をとつたことが公知の事実であるとするのは直ちに首肯し難い)。従つて審決が審判開始決定を取り消さないことをもつて不当とすることはできないのである。

四、審決主文の命じた措置は不当であるとの主張に対する判断。

(一)  審決主文第一項について。

審決主文第一項は「被審人株式会社北海道新聞社は昭和二十六年二月他の七新聞社と連名をもつて、新聞販売所長同販売所構成員あて発した声明を、この審決確定後二十日以内に撤回する措置をとらなければならない」とするものである。このいわゆる八社声明は原告を除くその余の七社について違法とされるべきや否は別問題として、審決はその認定のような事実関係のもとにおいて原告自身がかかる声明に名を連ねてこれを維持することを違法と断じたものである。すでにその行為にして違法である以上、この共同声明が原告と他の七社との合同行為であるとしても、これは少くとも原告に関する限り法律上なんらの拘束力をもつものでなく、原告が単独でこれから自ら脱退し自分だけについてこの声明を撤回することはなんら不可能のことではない。被告が他の七社について審判に参加させることをせず、原告一人を審判の対象としたのは少しも違法ではない。

また共同声明自体はそれ自体一個の態度の表明であつて、その発表は過去の事実であつても、それが撤回されるまでは同一の態度を維持するものと解されるのであるから、これを撤回してその声明にある如き態度を改めることを求めるのは、審決として当然の措置であり、なんら無理を強いるものではない。

また道内においてすでに合売制は廃止されたとするのは審決の認めないところであるから、今日右声明がなんらの必要がないものとも断ずることはできない。

(二)  審決主文第二項について。

審決主文第二項は「被審人株式会社北海道新聞社は今後新聞紙の販路の拡張または維持のために自社と競争関係にある他の新聞社から不当に見本紙または本紙の供給を受けないことを条件として新聞販売店と取引してはならない」というにある。これは要するに本件違反行為のような事態のくり返しを禁じたものと解することができるのであつて、これと事情を異にする原告が今後あらたにいわゆる専売店を設置することまで干渉するものとは解し得ない。すなわち道内になお合売制が残存する限り、また将来合売制に移行する可能性の存する限り、本項記載のような事項を禁止するというのがその趣旨である。従つて原告主張のような憲法違反の問題とはなり得ないものというべきである。この点の主張もまた理由がない。

五、結論

しからば原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 垂水克己 藤江忠二郎 浜田潔夫 猪俣幸一 浅沼武)

(別紙)

昭和二十六年(判)第九号

審決書

札幌市北大通西三丁目六番地

被審人     株式会社  北海道新聞社

右代表者    代表取締役 阿部謙夫

右代理人    弁護士   長野潔

西条正一郎

右被審人に対する私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下私的独占禁止法という。)違反事件につき、審判官阿久津実は、昭和二十八年四月七日審決案を当委員会に提出し、四月十六日被審人株式会社北海道新聞社から異議の申立があつたので、当委員会は、本件事件記録および異議申立書に基いて右審決案を調査し、次のとおり審決する。

主文

一、被審人株式会社北海道新聞社は、昭和二十六年二月他の七新聞社と連名をもつて、新聞販売所長、同販売所構成員あて発した声明を、この審決確定後二十日以内に撤回する措置をとらなければならない。

二、被審人株式会社北海道新聞社は、今後新聞紙の販路の拡張または維持のために、自社と競争関係にある他の新聞社から、不当に見本紙または本紙の供給を受けないことを条件として、新聞販売店と取引してはならない。

三、被審人株式会社北海道新聞社は、第一項の措置をとりたるのち、十日以内に公正取引委員会に、その内容を報告しなければならない。

事実、証拠および法令の適用

当委員会の認定した事実およびこれに対する証拠ならびに法令の適用は、いずれも別紙審決案と同一であるから、これを引用し、私的独占禁止法第五十四条および公正取引委員会審判規則第十条第一項により、以上のとおり審決する。

昭和二十八年五月十八日

公正取引委員会

委員長 横田正俊

委員  芦野弘

委員  湯地謹爾郎

委員  高野善一郎

委員  山本茂

昭和二十六年(判)第九号

審決案

札幌市北大通西三丁目六番地

被審人  株式会社  北海道新聞社

右代表者 代表取締役 阿部謙夫

右代理人 弁護士   長野潔

同代理人       西条正一郎

公正取引委員会は、右被審人の行為が私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下私的独占禁止法という。)に違反しているということで昭和二十六年七月十日審判開始決定書を送達し、これに対し被審人代理人から八月二十日答弁書が提出された。(なお、昭和二十七年一月二十四日答弁書訂正申立書が提出された。)

本件につき、昭和二十六年八月二十日公正取引委員会から私的独占禁止法第五十一条の二及び公正取引委員会審判規則第二条第一項によつて審判官に指定された横地恒夫が同月二十三日以降昭和二十七年三月十四日に至る間二十二回にわたり審判を行つたが、同人はその後五月一日付をもつて他に転任したので、六月十二日新たに審判官の指定を受けた本職が十月二十二日以降更に七回の審判を行い昭和二十八年三月七日結審した。

その結果、次のような審決をすることが適当であると思料する。

主文

一、被審人株式会社北海道新聞社は、他の七新聞社との連名をもつてなした昭和二十六年二月新聞販売所長、同販売所構成員あて声明書を、この審決確定後二十日以内に撤回する措置をとらなければならない。

二、被審人株式会社北海道新聞社は、今後新聞紙の販路拡張に当り、新聞販売店と、自社と競争関係にある他の新聞社から見本紙または本紙の供給を受けないことを条件として、取引してはならない。

三、被審人株式会社北海道新聞社は、第一項の措置後十日以内に公正取引委員会にその旨を報告しなければならない。

事実および証拠

第一、一(イ) 被審人株式会社北海道新聞社(以下北海道新聞社という。)は、札幌市に本社を置き、「北海道新聞」と題する新聞の発行ならびに販売の事業を営み、昭和二十五年十一月一日現在発行部数六十一万余部を数え、各新聞社販売部数のうち北海道地区においてはその約五十六パーセント、また札幌市内においてはその約四十五パーセントに相当する販売部数を有し、かつ、北海道地区における六百十の新聞販売店のうちその約九十パーセントに相当する新聞販売店をもつて道新会が結成され、当時札幌市内においては十七の新聞販売店(遠谷十郎、後藤栄、山出太、富田玉吉、若林啓介、島影平十郎、藤塚広、一柳謙一郎、新井輝彦、田中健治、藤堂敏雄、伊藤賢、中村友保、藤本要、森武敏、畑中宏仁事畑中重太郎および石川信三)全部がこれに加入していたものである。

(ロ) 被審人外株式会社北海タイムス社(以下北海タイムス社という。)は、札幌市に本社を置き、「北海タイムス」の題号をもつて新聞の発行ならびに販売の事業を営んでいるものであるが、同社は、昭和二十一年北海道新聞社の援助の下に、そのかつての職員等により設立され、当初用紙割当、印刷、通信等の面において北海道新聞社から種々の便宜を受け、昭和二十五年二月ごろまで両者はきわめて友好関係にあつたものと認められる。

二、しかるに従来北海道新聞社は朝刊のみを、北海タイムス社は夕刊をそれぞれ発行しており、その結果札幌市内においては朝刊の北海道新聞に対して、夕刊の北海タイムスとして各別個の分野を守つてきたところ、昭和二十五年三月二十八日前者がまず夕刊を創刊してその販売拡張を始めるや、その翌日後者もまた朝刊を発行してこれに対抗するに及びこの関係は破られ、ここに札幌市を中心とする両者の新聞販売競争が開始されるに至つた。

すなわち、北海道新聞社は札幌市内においてその夕刊を販売するに当り朝刊販売数約六万部の六割相当の部数の夕刊の販売拡張を市内の各新聞販売店に要求したが、当時同市においては既に夕刊北海タイムスが約三万八千部販売されていた上、記事編集の不手際、販売方針の不徹底等のためその意図した夕刊拡張計画は必ずしも予想通りには運ばず、おおむね朝刊の三割ないし四割程度の線に達したのみであつた。

三、同年十一月北海道新聞社は更に強力な第二次夕刊拡張を企図し、例年の年末拡張を一箇月繰上げ札幌市内の全新聞販売店に依頼することとし、同月二十二日各新聞販売店を同社三階会議室に参集せしめた上同社近くの「ときわ」(料亭)において、新聞社側から業務局次長鶴谷彌八郎、販売部長麻生勝郎、販売部次長石本栄市並びに西条正一郎が出席し夕刊見本紙配達の申込を行い、その朝刊に対する六割相当数の夕刊確保を再び要求したが、その席上鶴谷の挨拶のあと麻生は当社は重大な決意をもつて極秘りに事を運び今回札幌市内版の編集方針を改めるについては(朝夕刊一本建編集と朝夕刊のセツト売方針)、編集、工務その他各方面の協力を求め並々ならぬ苦心をしたものであり、また地元札幌市の成績の良否は地方に甚大な影響があるから特に販売に努力されたい旨責任者としての苦衷をひれきして協力を求め、しかして北海道新聞社は翌二十三日から月末まで夕刊見本紙を送付した。

四、一方、北海タイムス社においても北海道新聞社の拡張計画に対抗して二十三日夕刻から市内毎日各販売店に社員を派しできうる範囲において朝刊北海道新聞と同数の朝刊の拡張を懇請し、後藤店、藤塚店等若干の販売店を除きおおむね承諾を得たので一応市内全販売店に対し二十四日以降朝刊見本紙を送付した。

五、しかるに、北海道新聞社は、北海タイムス社の右申込を知るや、これを自社の拡張に対する妨害行為とみなし、二十三日夜同社販売部員を市内各販売店に派遣して予定通り自社の見本紙の配布に支障なきよう督励したが、一部において自社の夕刊見本紙配達の完了するまで北海タイムス社の朝刊見本紙はこれを配達しないよう要請したものである。

六、これに対し、市内販売店の大部分は合売制(共販制)の建前もあり朝刊北海タイムスの見本紙はできうる限りこれを配達するとともに二十四日遠谷十郎(当時新聞販売同業組合北海道連合会会長、札幌地方新聞販売同業組合長、道新会会長、なお、札幌市新聞販売同業組合組合長ともいう。)の招きに応じ北海道新聞社会議室に寄り合いこの間の問題を討議したが前記(三、五)のごとき北海道新聞社の要求もあり、また配達上の点から北海タイムスの見本紙は北海道新聞社の夕刊見本紙拡張期間後行うという意見が強かつたため、同日午後八時ごろ十七販売店中遠谷、後藤、山出、富田、畑中(重好)、森らが代表となり北海タイムス社に交渉するため、販売部長田島繁得と折衝を重ね、一時は北海タイムスの夕刊紙と同数の朝刊見本紙の配布をするということで歩み寄つたがその後の会合において営業局長伊藤利孝の言により同社としてはあくまで当初の申込通り、北海道新聞の朝刊と同数の朝刊見本紙配布を要求したためこの会談は物別れとなつた。しかしながら、同社は二十六日後藤、藤塚、富田、森、畑中、藤堂、島影、山出、石川の九店に更に二十七日には新井を加え十店に朝刊見本紙を送りその出方を見ることとなつた。

七、各販売店は、引続き二十七日もこれについての対策を北海道新聞社会議室において協議したが二十四日から二十七日に至る間、鶴谷、麻生らは新聞販売店の有力者たる遠谷又は後藤(遠谷十郎の道新会会長辞任後四発行本支社毎に設けられたもののうち札幌地方道新会会長)からその会議の模様につき会議中随時連絡を受けるとともに二十七日の会合には鶴谷が出席し、競争紙たる北海タイムスに優先し自社に対する協力を要請し同一期間における北海タイムス見本紙につき暗に不配を要求したため多数の新聞販売店は同社の意に迎合して同日北海タイムス社の申込はこれを拒絶することを決定し、その結果、森武敏、畑中宏仁および石川信三を除くじ余の十四新聞販売店は朝刊北海タイムス見本紙を放置してほとんどあるいは大半これを配達するに至らなかつたものである。

八、北海タイムス社は同社朝刊見本紙の不配は遠谷十郎の主導するところと目し、十二月四日付をもつて同人に対し、業界の指導的立場にあり、北海道新聞見本紙の配布については積極的に協力しながら北海タイムスのそれの場合はこれを拒絶したことは同社の営業方針に重大な支障をきたすということで新聞販売契約の解除を通告したが、この改廃に対し市内の販売店は同四日更に前記北海道新聞社会議室に会議し、新井新聞販売店を除く十六店は同日夜半この紙止めの撤回方申入れを行つたが、北海タイムス社は意を飜さなかつたため、一部新聞販売店中には当時北海タイムス社が、富良野、美唄等一、二の地区において専売の事実があつたため、本紙止めは同社の専売体制を意図するものと誤認し、一方同一行動に出ることにより同社が遠谷に対してなした新聞販売契約の解除を撤回することを期待せるもののごとく、前記森、畑中、石川、遠谷らを除くその余の新聞販売店は同社から従来通り取引継続方懇請され、かつ、同月五日付朝刊本紙及び同六日付夕刊本紙を荷受していたにかかわらずほとんどこれを配達しなかつたものであるが、右は北海道新聞社が、市内販売店のすべてが自社の系統店であるところからもつぱら自社の読者の獲得維持をはかるため、北海タイムス見本紙の不配を求めた際におけると同様暗黙のうちに北海タイムスの朝夕刊本紙の不配を強要したものと認められる。

九、次いで、右北海タイムス社発行の朝夕刊本紙不配の結果に基き北海タイムス社は同月六日これに参加した遠谷を除く後藤ほか十二名の新聞販売店に対し新聞販売契約解除を通告するとともに右不配地域に対して本社の直接配達を行う仕儀となつた。

十、これに対し、北海道新聞社は、その後も依然として北海タイムスを取り扱つていた札幌市所在石川信三新聞店に対し、その市内販売店に対する統制上夕刊見本紙の不配、北海タイムスへの切替、入金状況の不良を理由として昭和二十六年一月二十日新聞販売契約を解除し、更に自社および他社の担当員をして同店扱いの東京各紙の販売取扱につきこれを妨害せしめ、又岩内町所在島倉英夫新聞販売店に対しても同様新聞代金の不払等を理由として二月六日紙止めの上これを改廃すると同時に東京各紙も返上せしむるのやむなきに至らしめた。

十一、更に同月中北海道新聞社は、北海タイムス社を除く他の道内七新聞社(日本経済、北海日日、読売、毎日、朝日の各新聞社、北門新報社及び室蘭民報社)との連名をもつて新聞販売所長、同販売所構成員にあてた一販売店が一社の専売店に走つた場合は他紙はこれを取り扱わせない旨の声明を記載したビラを北海道全域にわたる新聞販売店に配布し、あるいは北海道地区新聞販売責任者会(部長会)又は地方の担当社員会等を利用して右ビラの趣旨に従い、その縁故者または店員らに北海タイムスを取り扱わせている余市町所在久留宮新十郎その他森武敏、畑中宏仁等に対し、これを擬装専売であるとして北海タイムスの放棄を強要しまた東京各紙の返還を迫る等圧迫を加えたものである。

第二、右第一の事実中

一および二の事実は被審人の認めて争わぬところであり、

三の事実は、答弁書記載の事実、被審人代表者中野以佐夫、参考人西条正一郎、鶴谷彌八郎、麻生勝郎、石本栄市、遠谷十郎、後藤栄、富田玉吉、島影平十郎、藤塚広、一柳謙一郎、田中健治、藤堂敏雄、伊藤賢、藤本要、森武敏、畑中宏仁、石川信三、山出太、若林千代、中村友保、茶家良永の審判廷における各陳述、新井輝彦の臨床審訊調書、審第三号証(森武敏の供述調書)審第四号証(遠谷十郎の供述調書)、審第五号証(後藤栄の供述調書)、審第六号証(麻生勝郎の供述調書)、審第十六号証(石川信三の供述聴取報告書)、審第二十一号証の一(昭和二十五年十一月二十三日の北海道新聞社の朝夕刊総合編集に関するチラシ)、昭和二十六年十月六日検証調書、弁第五号証(昭和二十五年十一月夕刊拡張計画予算と題する文書)を綜合して、

四の事実は、参考人伊藤利孝、田島繁得、横矢高宗、富田玉吉、藤堂敏雄、一柳謙一郎、畑中宏仁、畑中重好、島影平十郎、藤塚宏、藤本要、福田精一郎、佐竹文夫、伊藤賢、田中健治、石川信三、森武敏、遠谷十郎、若林千代の審判廷における各陳述、審第三号証ないし第五号証、審第十六号証、審第二十一号証の一を綜合して、

五の事実は、被審人代表者中野以佐夫、参考人西条正一郎、石本栄市、横矢高宗、島影平十郎、畑中宏仁、加藤勝衛、伊藤賢、森一光、森武敏、石川信三、一柳謙一郎、鶴谷彌八郎、麻生勝郎、藤塚広の審判廷における各陳述、審第十号証(畑中宏仁の供述調書)、審第十六号証を綜合して、

六の事実は、参考人田島繁得、伊藤利孝、遠谷十郎、後藤栄、島影平十郎、畑中宏仁、富田玉吉、藤堂敏雄、山出太、一柳謙一郎、森武敏、藤塚広、茶家良永、福田精一郎、佐竹文夫、伊藤賢、若林千代、藤本要、田中健治、石川信三、畑中重好の審判廷における各陳述、新井輝彦の臨床審訊調書、審第三号証ないし第五号証、審第十号証、審第十六号証、審第二十一号証五の(昭和二十五年十二月五日付遠谷新聞店外十六店連名の北海タイムス朝夕刊読者の皆様にお願いと題するビラ)、弁第四号証(昭和二十七年十月三十日付札幌管区気象台長名の気象証明)、昭和二十六年十月六日及び昭和二十七年三月五日付検証調書を綜合して、

七の事実は、参考人鶴谷彌八郎、麻生勝郎、石本栄市、遠谷十郎、後藤栄、畑中宏仁、伊藤賢、田中健治、富田玉吉、山出太、一柳謙一郎、島影平十郎、森武敏、石川信三、西条正一郎、藤堂敏雄の審判廷における各陳述、審第三号証、審第六号証、審第七号証、(鶴谷彌八郎の供述調書)、審第九号証(富田玉吉の供述調書)、審第十号証、審第十六号証、昭和二十六年十月六日検証調書を綜合して、

八の事実は、参考人田島繁得、伊藤利孝、横矢高宗、鶴谷彌八郎、麻生勝郎、西条正一郎、遠谷十郎、後藤栄、島影平十郎、富田玉吉、藤堂敏雄、若林千代、川又清一、藤本要、山出太、一柳謙一郎、藤塚広、福田精一郎、佐竹文夫、伊藤賢、田中健治、森武敏、久留宮新十郎の審判廷における各陳述、新井輝彦の臨床審訊調書、審第四号証、審第五号証、審第九号証、審第十号証、審第十一号証(木村茂の供述調書)、審第十二号証(伊藤利孝の供述調書)、審第十三号証(田島繁得の供述調書)、審第十六号証、審第二十一号証の五、審第二十一号証の六(昭和二十五年十二月六日付山出新聞販売店名の北海タイムス朝夕刊本紙不配に関する読者あてビラ)、審第二十一号証の七(昭和二十五年十二月六日付札幌市内新聞販売店一同名の読者あてビラ)、審第二十一号証の八(昭和二十五年十二月八日付山出新聞販売店の北海タイムス朝夕刊本紙不配に関する読者あてビラ)、審第二十一号証の十一(昭和二十五年十二月七日付北海タイムス社名の新聞販売店あてビラ)、審第二十六号証の一および二(昭和二十五年九月十三日、十月二十四日新聞販売同業組合北海道連合会組合長会議議事録写)、審第三十号証(昭和二十五年十二月五日付北海タイムス社名の遠谷十郎に対する新聞販売契約解除通告写)、審第四十三号証ないし第五十六号証(北海タイムス社にあてた札幌市内読者の投書葉書写)を綜合して、

九の事実は、参考人伊藤利孝、田島繁得、横矢高宗の審判廷における各陳述、審第二十一号証の十(昭和二十五年十二月六日付北海タイムス社販売部名の読者あてのチラシ)、審第二十一号証の十一、審第三十一号証(昭和二十五年十二月六日付北海タイムス社名の藤堂敏雄外十二名に対する新聞販売契約解除通告写)を綜合して、

十の事実は、被審人代表者中野以佐夫、参考人西条正一郎、麻生勝郎、石本栄市、石川信三、島倉英夫、後藤栄、川又清一、大場安之、谷口高春、石井末広、鶴谷彌八郎の審判廷における各陳述、審第六号証、審第十六号証、審第二十六号証の四(昭和二十六年一月二十四日新聞販売同業組合北海道連合会組合長会議議事録写)、ならびに石川信三提出の昭和二十五年十二月二十三日付および同二十六日付の札幌地方新聞販売連絡事務所から同人あての領収証、昭和二十四年三月八日付北海道新聞社から同人あての借用証書、昭和二十三年六月十九日付の北海道新聞社から同人あての仮領収証、昭和二十五年三月六日付の北海道新聞社から石川販売所あての書面、昭和二十五年十二月分計算書、石本栄市提出の昭和二十七年三月二十八日付新聞代未納調報告と題する書面を綜合して、

十一の事実は、参考人西条正一郎、石本栄市、鶴谷彌八郎、久留宮新十郎、羽田良太郎、畑中宏仁、橋本勇、栗城千策、谷口高春、石井末広、木村茂、大場安之、森一光、藤本要、石川信三、森武敏、川又清一の審判廷における各陳述、審第一号証(久留宮新十郎の供述調書)、審第三号証、審第十号証、審第十六号証、審第二十号証(日本経済新聞社外七新聞社連名のいわゆる八社声明と称する専売対策に関するビラ)、審第二十二号証の一(昭和二十五年十二月十一日付北海道地区新聞販売部長会ならびに地方新聞販売連絡事務所長名の北海タイムス社とけつ別の旨の新聞販売店あてビラ)、審第二十二号証の二(昭和二十五年十二月十五日付札幌地方新聞販売連絡事務所の北海タイムス新聞代金取扱に関する新聞販売店あてビラ)、審第二十七号証(札幌地方新聞販売同業組合幹事会議事録および同組合定期代議員総会議議事録写)、審第三十七号証(北海道地区新聞販売部長会申合せ事項その他に関する説明書)を綜合して、

いずれも認めることができる。

なお、昭和二十八年三月七日の被審人代理人の最終意見の陳述においては、おおむね本件事実を認めているほか、北海道新聞社と道新会との特殊関係、すなわち道新会又はその会員は北海道新聞社から金銭上の援助その他種々の便宜を受けておる事実もまた認めるところであつて、参考人多数の陳述、弁第三号証の二ないし九(道新会経費一覧表と題する書面、昭和二十五年七月二十五日付精算書と題する書面、同日付株式会社温泉購販商会から北海道新聞社あての領収書、受取書と題する書面、上記日付の北海道新聞社赤塚信平から道新会あての領収書、同日付同人からの領収書)、審第二十一号証の五ないし七等によつて明らかな通りである。

法の適用

前記認定の事実によれば五、七、八、十、十一、の一連の行為は、被審人北海道新聞社が自らまたは道新会ないしはそのさん下の各新聞販売店、札幌地区および同地方新聞販売同業組合、北海道地区新聞販売部長会もしくは担当社員会を通じて自己の競争者たる北海タイムス社から、見本紙あるいは本紙の供給を受けないことを条件として、北海道全域、特に札幌市を中心とする地区において各新聞販売店と取引するものであつて、右は私的独占禁止法第二条第六項第五号に規定する不公正競争方法に該当し、同法第十九条に違反するものである。

被審人代理人は、合売制下においては、各新聞販売店は各新聞発行本社を平等に取り扱うべきものと認めながら、本件の場合をもつて、「一頭の馬を共有するとき同時に共有者が利用することは不可能で、甲が馬に乗つているとき乙もまたその馬に乗るとすれば馬は倒れる以外にみちがない。」と述べているが、販売店側はその大部分の者が当初は各自可能な範囲において北海タイムスの朝刊見本紙も配達した事実と、昭和二十五年十一月二十五、六日ごろの北海タイムス社との交渉において、北海タイムス夕刊紙と同数の朝刊見本紙の配付を一時考慮した事実に見るもその能力にはかなりの弾力性があるものと認められ、この点の被審人の主張は合売制の本質と配達能力の限界を混同したものといわなければならない。

また、いわゆる八社声明に関する被審人の弁解も作成の経緯、経過及びその内容を検討すれば、また上記のような前後の事情を考えれば単に合売制維持のみを表明したものと断ずることはできない。

次に、被審人は、見本紙の供給は新聞販売店にとつて、私的独占禁止法第二条第六項第五号にいう経済上の利益ではないと主張するが、見本紙投入が新聞紙の販売拡張上発行本社にとりきわめて重要な事柄であり、販路拡張は同時に販売店に利益をもたらすことは争なく、しかも販路拡張に際し販売店が見本紙を受ける場合としからざる場合とを比較考量すれば、その「購読の誘致」の点で著しい難易のあることは明白な事実であつて、販売店が見本紙の供給を受けることは正に経済上の利益にほかならない。

最後に、被審人は、本件事案は合売制下の事柄であり、最近の新聞販売における専売制への移行の事情に照し事情変更があつたものとして、私的独占禁止法第六十六条第二項の趣旨から本件審判開始決定を取消すべきものと主張するが、道内における新聞販売事情は審判開始決定時とその後において特に変更は認められず、北海道新聞と北海タイムスの二有力紙から見て主として札幌市その他の市部においてそれぞれいずれか一方の専売店であるという事実は認められるが依然一種の共販(複合専売)が行われており、特に大部分の地方においては、なお合売制によるものと認められるから、この点の主張も採用することを得ない。

よつて私的独占禁止法第五十四条に従い主文の通りの措置を命ずるものである。

昭和二十八年四月七日

公正取引委員会事務局

審判官 阿久津実

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